分かっていた副作用と、実際に身体で知った副作用――4サイクル目を終えて

S状結腸癌の術後補助化学療法を続けてきました。

当初は3週間を1サイクルとして6サイクルを予定していましたが、治療経過をみながら予定が少し変わり、4サイクルでいったん一区切りとなりました。

3サイクル目までは、自分の中である程度の「パターン」ができていました。

最初の1週間は嘔気、手足や口まわりのしびれ、頭痛。その次の1週間になると、しびれは残っているものの、温かいものであれば比較的食事が取れるようになる。そして最後の1週間は全身倦怠感や疲労感を残しながらも、ほぼ普通の日常生活に戻っていく。

副作用はつらいものの、「だいたいこういう経過なのだろう」と思い始めていました。

ところが、4サイクル目は違いました。

点滴の直後から、水分を取ることさえ難しくなりました。頭痛と嘔気が強く、全身のしびれも加わり、ベッドから離れられなくなりました。

医師としては、治療を重ねるにつれて副作用が強くなることがある、ということは知っています。

知識としては、分かっていました。

しかし、「分かっていること」と、「実際に自分の身体が動かなくなること」は、まったく別の話でした。

これほどまでに消耗するとは思っていませんでした。

妻の心配もピークに達していました。夏休みで帰省していた娘にも背中を押され、とうとう夜間の救急外来を受診しました。

家族は入院を希望しましたが、私は帰宅することを選び、点滴を受けて自宅に戻りました。その後もしばらくは、自宅で点滴を受けながら過ごしました。

このあたりは、医師であることが良かったのか悪かったのか、自分でもよく分かりません。

症状をある程度自分で評価できる一方で、「まだ大丈夫だろう」と考えすぎるところがあります。

医療者に迷惑をかけたくない、できれば入院したくない、という気持ちもあります。

しかし、患者として考えれば、そばで見ている家族の不安もまた現実です。

自分の身体について、自分だけが判断すればよいわけではないのだと感じました。

幸い、その後は1週間ほど遅れて食欲が戻ってきました。

最近はむしろ、食べ過ぎではないかと思うくらいです。

ただし、すべてが元通りになったわけではありません。

手足のしびれと痛みは残っています。さらに手足症候群と呼ばれる皮膚症状も強く、外来診療では保護のために手袋をしています。

キーボードを打つ。マウスのスクロールボタンを動かす。スマートフォンの画面に触れる。

以前なら意識もしなかった動作の一つひとつで、しびれや痛みが走ります。

そのため、自宅での書類作成は、もっぱら音声入力になりました。

仕事には戻っていますが、以前と同じようには働けません。

午前中に約3時間、外来診療に全力を使うと、それだけで疲れ果てます。

帰宅して午後から夕方まで眠り、夕食を食べ、また翌朝まで眠ります。「少し横になる」という程度ではありません。本当に眠ってしまいます。

妻の買い物についてスーパーマーケットを一周することも、今ではリハビリの一つです。

カートを押して売り場を一巡するだけで、帰る頃にはどっと疲れが出ます。

以前なら運動とも呼ばなかったようなことが、今は一日の中の立派な活動です。

こういうことは、医学書の副作用一覧を読んでいても分かりません。

「倦怠感」という四文字と、スーパーを一周しただけで休みたくなる身体との間には、かなり大きな距離があります。

「末梢神経障害」という言葉と、スマートフォンの画面に触れるのが痛いという経験の間にも、同じような距離があります。

私はこれまで、総合診療医として多くの癌患者さんを診療してきました。

副作用について説明することもありました。

もちろん、患者さんがつらいことは理解しているつもりでした。

ただ、今になって、その「理解しているつもりだった」という言葉の意味を考えています。

これまで診療してきた患者さんたちが、私と同じように感じていたとは言えません。病気も治療も生活背景も、一人ひとり違います。

それでも、診察室で「疲れます」と言われたとき、その一言の向こう側にある生活を、以前より少し具体的に想像するようにはなりました。

患者を理解するには、自分が患者になるのが一番なのかもしれない。

以前から、そんなことを半ば冗談のように考えていました。

実際に患者になってみると、できれば経験せずに理解できる医師でありたかった、とも思います。

そしてもう一つ、今は強く感じています。

治療する側に立つためには、自分自身が心身ともにある程度健康でなければならない、という当たり前のことです。

今はまだ、本調子とは言えません。

治療が一区切りとなり、これから少しずつ回復していくことを期待していますが、身体がどのくらいの時間を必要とするのかは分かりません。

焦らず、と言いながら、仕事をしているとつい以前と同じように動こうとしてしまいます。

医師として知っていたこと。

患者になって初めて分かったこと。

そして、患者になってもなお分からないこと。

今回の経験を、きれいな教訓にまとめるつもりはありません。

ただ、いつかもう少し身体が戻ったとき、この経験が診察室で患者さんの言葉を聞く自分を、少しだけ変えているのではないかと思っています。

【医学的な補足】

抗がん剤治療による末梢神経障害や手足症候群、倦怠感などの現れ方や回復までの期間には個人差があります。

この記事は、私自身の治療経過と身体感覚を記録したものであり、同じ治療を受ける方に同様の経過が起こることを示すものではありません。症状の評価や治療継続・休薬などの判断については、がん専門医と相談しながら進めています。