抗がん剤治療の近況――どうやら私は「食べづわり」らしい
現在の病状と治療経過について、ご報告いたします。

5月にS状結腸癌の手術を受け、目に見えて取り切れる病変は、すべて切除していただきました。
その後、令和8年6月15日から入院し、再発の可能性を少しでも下げるための術後補助化学療法として、CAPOX療法を開始しました。「カポックス」あるいは「ケイポックス」と呼ばれる治療です。
CAPOX療法では、オキサリプラチンという薬を点滴し、カペシタビンという薬を2週間内服します。その後1週間休薬し、3週間で一つのサイクルとなります。
初回の点滴でアナフィラキシーなどの大きなアレルギー反応は認めなかったため、その後は外来通院で治療を続けています。
医学的な説明を読めば、治療の仕組みや起こり得る副作用は、ある程度理解できます。
しかし、知識として分かっていることと、自分の身体で実際に経験することは、やはり別の話でした。
初回の抗がん剤治療を始めてから10日ほどは、嘔気と、手足や口のしびれが強く、食事にもかなり支障が出ました。
嘔気の感覚をこれまでの経験にたとえるなら、ひどい二日酔いと乗り物酔いが、交代で訪ねてくるような状態です。
ときには、二人そろってやって来ます。
しかも、なかなか帰ってくれません。
空腹になると気持ちが悪くなります。かといって、食べ過ぎても気持ちが悪くなります。
その一方で、なぜか酸っぱいものが欲しくなります。
私は経験したことがありませんが、これは、いわゆる「つわり」に近い状態なのでしょうか。
空腹では気持ちが悪い。少し食べると落ち着く。しかし、食べる量を間違えると、また気持ちが悪くなる。
分類するなら、「食べづわり」とでも言うのでしょうか。
もちろん、本当のつわりを経験した方からは、「そんな簡単に一緒にしないでください」と言われるかもしれません。その点は、先にお詫びしておきます。
ちなみによく言われる「酸っぱいものが欲しくなる」はその通りで、先日は妻に温かいちらし寿司を作ってもらいました。美味しかった!
ただ、米の臭いは気にならず、その辺りは「つわり」とは一線を画すものかもしれません。
ただ、今の私の食生活は、
「空腹にしない」
「食べ過ぎない」
「冷たくしない」
という、なかなか繊細な三原則で成り立っています。
料理の内容以上に、量と温度とタイミングが重要です。
医師として、患者さんに食事の工夫をお話しすることはこれまでにもありました。しかし、自分の胃袋と、これほど細かな交渉をすることになるとは思っていませんでした。
オキサリプラチンの影響なのか、治療直後は冷たいものを口にすると、口の中や喉に刺激を感じます。そのため、食事や飲み物は温かいものが中心になります。
一方で、治療から日数がたつにつれて、少しずつ食べられるものが増えてきます。
一つのサイクルの最後の週になると、常温であればゼリーや果物も食べられるようになります。
たかがゼリー、たかが果物と思われるかもしれません。
しかし、温かいものしか受け付けなかった時期を過ぎ、常温のゼリーを口にできるようになると、「今回はここまで回復してきた」と感じます。
果物も、冷蔵庫から出したばかりのものは難しくても、しばらく室温に置けば食べられます。
抗がん剤治療を始める前には、果物を常温に戻すという行為に、これほどの意味を感じるとは思いませんでした。
カペシタビンを2週間内服し終える頃から、嘔気や口の症状は少しずつ軽くなります。
現在は、トイレとの往復を挟みながら午前中の外来診療を行い、午後は帰宅して昼寝をする、という生活を続けています。
以前なら「午睡」と書けば、少し優雅に聞こえたかもしれません。
今の昼寝は、午後の予定というより、治療を続けるために必要な業務の一つです。
令和8年7月9日から、2サイクル目が始まりました。
副作用の種類は初回とおおむね同じでしたが、症状が軽くなるまでの時間は、少し長くなったように感じました。
そして、令和8年7月30日から3サイクル目に入りました。
「つわりのような消化器症状」は相変わらずです。
一方で、手足や口のしびれなどの神経症状は、治療を重ねるにつれて、少しずつ強くなっているように感じます。
消化器症状と神経症状は、それぞれ単独でも困ります。
嘔気があるため、食べられそうなものを探します。しかし、冷たいものはしびれや刺激のため口にしにくい。
食べなければ気持ちが悪くなり、食べ過ぎても気持ちが悪くなる。
ようやく食べられそうなものが見つかっても、今度は温度が問題になります。
副作用同士が相談して、こちらの逃げ道を少しずつふさいでいるようです。
それでも、症状には波があります。
治療直後のつらい時期があり、そこから少しずつ回復し、サイクルの最後の週になると、食べられるものも増えてきます。
午前中だけでも外来診療ができる日があります。温かい食事を取れる日があります。常温のゼリーや果物を食べられる日も戻ってきます。
治療前には意識もしなかった小さな変化が、今は一つの回復の目安になっています。
副作用の話ばかりになりましたが、抗がん剤には「副作用」だけでなく、本来期待している作用があります。
手術後に残っている可能性のある、目には見えない癌細胞を抑え、再発の可能性を少しでも下げることです。
副作用が強いからといって、治療効果も強いと判断できるわけではありません。反対に、症状が軽いから効いていないということでもありません。
治療効果や今後の方針を、自分の身体感覚だけで判断することはできません。
私は総合診療医ですが、大腸癌の薬物療法を専門としているわけではありません。
今は一人の患者として、がん専門医に症状を伝え、必要な調整について相談しながら、治療を進めています。
医師としては、自分の症状を分析したくなります。
しかし患者としては、「これはいつまで続くのだろう」「次のサイクルではさらに強くなるのだろうか」と、普通に不安にもなります。
知識があるから安心できることもありますが、可能性を知っているからこそ、考えなくてもよいことまで考えてしまうこともあります。
その両方を抱えたまま、今は目の前の一つのサイクルと向き合っています。
治療は3週間ごと、計6サイクルの予定です。
順調に進めば、10月中旬には、いったん治療を終えられる見込みです。
まだ折り返し地点にも届いたばかりです。今後、副作用がどのように変化するのかは分かりません。
それでも、自分の役割をできる限り続けるために、まずは患者として真剣に治療と向き合っていきます。
午前中は外来へ。午後は昼寝へ。
そして食事は、空腹でもなく、満腹でもなく、治療直後はできるだけ温かく。
サイクルの最後には、常温のゼリーや果物を楽しみにする。
しばらくは、この妙に注文の多い胃袋と相談しながら、治療の日々を過ごすことになりそうです。
【医学的な補足】
CAPOX療法は、オキサリプラチンの点滴と、カペシタビンの内服を組み合わせた治療です。
一般に、カペシタビンを一定期間内服した後に休薬期間を設け、これを一つのサイクルとして繰り返します。
嘔気、食欲低下、下痢、口腔内の違和感、手足のしびれなどがみられることがあります。ただし、症状の種類や強さ、現れる時期、回復までの期間には個人差があります。
この記事に記載した症状や食事の工夫は、あくまで私自身の治療中の経験です。
副作用が強い場合や長引く場合には、自己判断で我慢せず、主治医や治療施設に相談することが大切です。

