がん克服のカギは、意外と日常の中にある
がん研究の進歩と、暮らしを続けるためのヒント

久しぶりに、令和8年7月4日(土)に午前・午後のフルタイム外来へ復帰しました。結構忙しかったですね。
さすがに帰宅後は少し疲れていて、何となくテレビをつけたところ、たまたま放送されていたのがNHKの番組『タモリ・山中伸弥の!? がん克服のカギ』でした。
「疲れているから、軽く流し見しよう」くらいの気持ちだったのですが、見始めるとこれがなかなか面白い。タモリさんのほどよい脱力感と、山中伸弥先生の知的なわかりやすさが合わさって、重いテーマであるはずの「がん」が、怖さだけではなく、少し前向きに見えてくる番組でした。
番組では、がんの予防、治療、再発予防について、最新の研究が紹介されていました。
特に印象に残ったのは、有酸素運動の話です。
大腸がんの治療を受けた方を対象にした研究で、運動プログラムを続けたグループでは、がんによる死亡リスクが下がったという内容が紹介されていました。早歩き、ランニング、ダンスなど、心拍数が少し上がるくらいの運動です。
正直に言いますと、私は有酸素運動があまり好きではありません。
「やはり来たか、有酸素運動……」という気持ちです。
医者としては、運動が大事だということはもちろん分かっています。しかし、自分がやるとなると話は別です。診察室ではもっともらしく話していても、いざ自分の番になると、急に腰が重くなる。人間というのは、なかなか都合よくできています。
ただ、今回の番組を見ていると、「がんに対して運動がよい」という話が、単なる健康論ではなく、かなり具体的な研究として示されていて、改めて考えさせられました。
番組では、運動をすると筋肉が糖を使うため、がん細胞に回る糖が減る、という説明がありました。難しい言葉で考えるより、「筋肉が先にご飯を食べてしまうので、がん細胞に回る分が少なくなる」と考えると、少しイメージしやすいかもしれません。
がん細胞はなかなか賢い相手ですが、人間の体もなかなかよくできています。
もう一つ印象に残ったのは、がんリハビリの話でした。
以前は、手術や治療の後は「安静にする」という考え方が強かったように思います。しかし今は、治療後にできるだけ早く動くこと、さらに治療前から体力をつけておくことが大切だと考えられるようになっています。※私も手術の翌日から痛みに耐えながら歩かされました。(治療者の愛情ですね。)
これは、外来や在宅医療の現場でも実感するところです。
病気そのものの治療も大切ですが、治療のあとにその人がどう暮らしていくかも、とても大切です。歩けるか。食べられるか。家でトイレに行けるか。家族と会話できるか。好きなテレビを見て笑えるか。
医療は、検査値や画像だけで完結するものではありません。
在宅医療では、その人の暮らしそのものに触れます。総合診療でも、検査値だけでは見えない困りごとに出会います。がんの治療も、手術、抗がん剤、放射線だけでなく、「暮らしを支える体力」や「日々の動き」が、ますます大事になっているのだと感じました。
もちろん、運動がよいからといって、誰もが同じように動けるわけではありません。
治療中の方、痛みがある方、息切れがある方、体力が落ちている方、気持ちがついてこない方もおられます。そういう時に、「運動しなければだめです」と言われると、かえってしんどくなることもあります。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、できる範囲で工夫することだと思います。
散歩が難しければ、家の中を少し歩く。立つのがつらければ、座ったまま足を動かす。今日は無理なら、明日また考える。三日坊主でも、三日動いたなら、それはゼロではありません。
「一生続けなければ」と思うと気が重くなりますが、「まずは2か月、3か月だけ試してみる」くらいなら、少し気が楽になります。うまくいけば習慣になりますし、うまくいかなければ作戦変更です。人生も体調管理も、作戦変更の連続です。
番組では、がん研究の進歩もたくさん紹介されていました。
がん細胞が周囲の細胞を味方につける話、ウイルス感染ががんの再発に関係する可能性、がん細胞をただ攻撃するだけでなく「おとなしくさせる」方向の研究など、恥ずかしながら私自身も知らないことが多く、勉強になりました。
昔は、医学界で話題になったことが、テレビで紹介されるまでにかなり時間差があった印象があります。ところが最近の番組は、ずいぶんアップデートされています。ぼんやりテレビをつけたつもりが、しっかり勉強させられました。油断できません。お昼のワイドショーではありません。
わたくし自身も治療を受けながら、日々の診療を続けています。
病気があると、予定通りにいかないこともあります。体力も気力も、日によって波があります。けれど、病気があっても暮らしは続いていきます。仕事も、家事も、家族との時間も、何となくつけたテレビも、その人の生活の一部です。
だからこそ、医療は「病気をどうするか」だけでなく、「その人がどう暮らしていくか」を一緒に考えるものなのだと思います。
今回の番組は、がんの怖さをあおるというより、「人間もなかなか賢い」「できることはまだある」と感じさせてくれる内容でした。
有酸素運動が嫌いな私としては、少し耳の痛い番組でもありましたが、まあ、まずはぼちぼちです。
いきなり立派な運動習慣を目指すのではなく、少し早歩きしてみる。エレベーターではなく階段を少し使ってみる。疲れた日は休む。笑えるところは笑いながら、できる範囲で体を使っていく。
がんの話題はどうしても重くなりがちですが、今回の番組を見て、少し明るい気持ちになりました。
研究は進んでいます。
医療も変わっています。
そして、私たちの暮らしの中にも、まだ工夫できることがあります。
完璧でなくても、ぼちぼちでよいのだと思います。

ところで、最初はゴールデンウィークに放送されていて今回のは再放送だったようです。
NHKONEでは令和8年7月11日(土)午後5時くらいまで配信されているようです。
(受信契約している人は無料!?)
NHKオンデマンドも便利ですがこれは純粋に有料ですね。
視聴環境がある人にはお勧めの回でした。
タモリ・山中伸弥の!? がん克服のカギ
[総合] 2026年07月04日 午後4:45 〜 午後5:58 (1時間13分)
タモリ・山中伸弥による知的エンターテインメント!第6弾は「がん克服のカギ」。死亡リスク30%減!予防にもつながる意外な健康法!?最新研究で「がんの本質」に迫る!
出演者ほか
【司会】タモリ,山中伸弥,【出演】吉村崇
詳細
タモリ・山中伸弥がお届けする知的エンターテインメント第6弾!テーマは「がん克服のカギ」。死亡リスク30%減!学会で拍手喝采を浴びた“特効薬”の正体は「ある生活習慣」だった!さらに治療効果をアップさせる新対策を取り入れた医療現場も紹介。「第4の治療」とも言うべきほどの効果を上げるその対策、実は自分でできる簡単なもの!最新研究から「がん克服のカギ」を探求すると「がんと人類進化の深い関係」も見えてくる!
ジャンル
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

