「遠隔転移なし」と聞いた日――医師として、患者として
今日は山口大学医学部附属病院の受診日でした。

胸腹部の造影CTを受け、結果は遠隔転移なし。血液検査にも異常はなく、腫瘍マーカーも問題ありませんでした。化学療法もいったん終了し、これからはおよそ3か月ごとの定期通院で経過をみていくことになりました。
こうして文章にすると、数行で終わる話です。
けれども、自分が患者になってみると、この「遠隔転移なし」という短い言葉の重みは、以前とは少し違って感じられます。
私は総合診療医として、これまで多くの癌患者さんを診療してきました。大腸癌の患者さんの診療や、在宅療養、看取りにも携わってきました。ただ、私はがん専門医ではありません。そして今は、診療する医師ではなく、S状結腸癌の治療を受ける一人の患者です。
医師として考えれば、今日の結果は比較的淡々と整理できます。
CTでは遠隔転移を認めない。血液検査に異常はない。腫瘍マーカーにも問題はない。化学療法はいったん終了し、今後は定期的な経過観察へ移る。
診療録なら、それほど長い記載にはならないでしょう。
しかし患者としては、そう簡単には終わりません。
検査を受け、結果を聞き、そして「遠隔転移はありません」と説明を受ける。その言葉を実際に自分のこととして聞くのは、医学知識として理解することとは少し違います。
医師である自分は、検査結果の意味を理解しようとします。
一方、患者である自分は、まずその結果を受け取ります。
今回は、その二人が同じ身体の中にいるような感覚でした。
医学知識があるからといって、患者としての気持ちまで医学的に整理できるわけではありません。むしろ、さまざまな可能性を知っているからこそ、結果を聞くまでは余計なことまで考えてしまうことがあります。
これまで診療してきた患者さんたちも、検査結果を待つ間に、それぞれいろいろなことを考えていたのでしょう。
もちろん、その方々の経験と私の経験は同じではありません。「患者さんの気持ちが分かった」と言うつもりもありません。
ただ、説明する側だった頃には十分に気づいていなかった「結果を聞くまでの時間」や、「大丈夫でした」と言われたときの言葉の重さを、今は少し違う角度から感じています。
そしてもう一つ、患者になって経験しているのは、自分の治療を専門家に任せるということです。
私は医師ですが、大腸癌薬物療法の専門家ではありません。自分の知識だけで治療方針を決めるのではなく、がん専門医から説明を受け、相談しながら治療を進めてきました。
医師として働いていると、自分で判断することが日常です。
患者になると、「自分で判断すること」ではなく、「十分に説明を受けたうえで専門家に任せること」が必要になります。
これは思っていた以上に、医師である私にとって新しい経験でした。
今日、その治療がひと区切りとなりました。
もちろん、これでS状結腸癌のことを考えなくてよくなったわけではありません。これからも定期的な検査と診察が続きます。
次回は11月2日に大腸内視鏡検査、その後11月17日に外来受診の予定です。
治療中は、どうしても次の点滴、次の内服、次の副作用という短い単位で時間を考えていました。それがこれからは、「次の検査まで」という時間に変わっていきます。
癌になったことは消えません。
けれども、治療だけが毎日の中心でもありません。
仕事をして、日常生活を送り、その途中で病院へ行く。そしてまた日常に戻る。
そんな時間が、これから始まるのだと思います。
今日はまず、「遠隔転移なし」という結果を、そのまま受け取っておこうと思います。
医師として分析する前に、一人の患者として。


