売上を減らすという選択|効率より「消耗」を減らす働き方の本質

売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放(ライツ社) 単行本 – 2019/6/14
中村朱美(佰食屋) (著)

売上を減らす、という違和感

外来をしていると、「忙しいのに報われない」という言葉をよく聞きます。

仕事は増えている。責任も増えている。でも、どこかで納得していない。
それでも「仕方ない」と続けてしまう。

少し不思議なのは、その状態を改善する方向が、たいてい「もっと効率よく」「もっと売上を上げる」という方向に向かうことです。

本当にそこなのか、と感じることがあります。


『売上を、減らそう。』という提案

今回取り上げるのは、『売上を、減らそう。たどりついたのは業績至上主義からの解放』という一冊です。

タイトルだけを見ると、かなり極端に見えるかもしれません。
ただ読み進めると、単なる逆張りではなく、「何のために働くのか」という問いが一貫して流れています。

売上や成長を追い続けることが、いつの間にか目的そのものになってしまう。
その結果、働く人の時間や余白が削られていく。

そこであえて「減らす」という選択を通じて、本来の目的に立ち返ろうとする姿勢が描かれています。


本質は「規模」ではなく「消耗」

この本を読んでいて感じたのは、問題は売上そのものではない、ということです。

売上が増えることで、業務は複雑になり、人間関係も増え、管理コストも増えていく。
そして、その調整のために時間が削られていく。

つまり、「規模の拡大」と「時間の消耗」がセットになっている。

ここで大事なのは、どれだけ効率よく回すかではなく、
そもそもその構造自体が必要なのか、という問いかもしれません。


なぜ私たちは減らせないのか

ただ、ここで一つ違和感が残ります。

多くの人は、「減らした方が楽になる」と頭では分かっていても、実際には減らせません。

理由はいくつかあると思いますが、一番大きいのは「評価の軸」が外にあることかもしれません。

売上、数字、成果。
それらが評価基準である限り、「減らす」という選択はリスクになります。

そして気づかないうちに、「自分の時間」よりも「外からの評価」を優先する構造に組み込まれていく。

ここは少し厳しい言い方になりますが、
多くの働き方は「自分で選んでいるようで、実は選ばされている」のかもしれません。


時間泥棒としての“成長”

波乗りクリニックの考え方では、
不必要な仕事や納得していない努力は「時間泥棒」と捉えます。

売上を増やすための仕事が、本当に必要なのか。
その仕事は、自分の納得の上に成り立っているのか。

もしそうでなければ、それは「成長」という名前の時間泥棒かもしれません。

ここで重要なのは、「頑張りが足りない」のではなく、
「時間の使われ方に問題がある」という視点です。


医療から見える背景

診療の中で感じるのは、症状の裏に「生活の歪み」があることです。

疲労、不眠、気分の落ち込み。
それらは単なる個人の問題ではなく、働き方や人間関係の構造と強く結びついています。

売上を追い続ける構造の中で、
無理なスケジュール、過剰な責任、断れない関係が積み重なっていく。

その結果として、身体や心にサインが出てくる。

総合診療では、そうした背景ごと診る必要があります。

症状を抑えるだけでなく、
「どこで時間が削られているのか」を一緒に見直していく。

医療は、単に回復させるだけでなく、
その人の時間を取り戻す支援でもあるはずです。


少しだけ減らしてみる

『売上を、減らそう。』が示しているのは、極端な選択というより、
「立ち止まる視点」なのかもしれません。

全部を変えるのは難しくても、
ひとつ減らしてみる。

ひとつ断ってみる。
ひとつ手放してみる。

それだけでも、時間の流れは少し変わります。

外来で話をしていると、
「本当はやらなくてもいいこと」に気づいた瞬間に、少し表情が軽くなる方がいます。

その変化は、薬よりも静かですが、確かに意味があります。


まとめ

売上を減らす、という言葉は強いですが、
本質は「何を残して、何を削るか」という選択の話です。

私たちは気づかないうちに、
増やすことばかりを求められているのかもしれません。

でも、本当に必要なのは、
少し減らして、少し余白を取り戻すことなのではないでしょうか。

その余白が、回復の入り口になることもあります。

すぐに答えは出なくてもいいので、
まずは、自分の時間がどこで使われているのか、少しだけ見直してみてもいいかもしれません。