小さく働くという選択|『ステイ・スモール』から考える消耗しない仕事と医療の役割

ポール・ジャルヴィス (著), 山田 文 (翻訳)
―『ステイ・スモール』から見える、消耗の構造
外来で話を聞いていると、「忙しい」という言葉がとても軽く使われているように感じることがあります。
本当に忙しいのかもしれませんし、そうでないのかもしれません。
ただ、その言葉の奥にあるのは、「時間が自分のものではない」という感覚のようにも思います。
予定に追われて、断れず、増え続ける仕事に合わせて生活を組み直す。
それを当たり前としている人は少なくありません。
でも、それは本当に「仕方のないこと」なのでしょうか。
『ステイ・スモール』という発想
『ステイ・スモール 会社は「小さい」ほどうまくいく』という本があります。
この本の主張はとてもシンプルです。
「大きくすることが正解とは限らない」ということです。
会社は成長し、拡大し、規模を大きくする。
それが成功の証だと、私たちはどこかで刷り込まれています。
けれども、規模が大きくなることで、
- 管理のための仕事が増える
- 意思決定が遅くなる
- 人間関係が複雑になる
- 本来やりたかったことから離れていく
そういった変化が起きていきます。
つまり、拡大は「自由」を増やすどころか、
むしろ「制約」を増やすことがある、という視点です。
大きくすることで失われるもの
少し考えてみると、これは会社に限った話ではないように感じます。
人間関係もそうですし、仕事の範囲もそうです。
広げれば広げるほど、管理コストは増えていきます。
そしてそのコストの正体は、ほとんどが「時間」です。
ここで少し違和感があります。
私たちは「効率」や「生産性」という言葉をよく使いますが、
実際にはその裏で、かなりの時間が失われています。
必要のない会議
形式だけのやり取り
断れない付き合い
こういったものはすべて、いわば「時間泥棒」です。
それでもなお、多くの人がそれを手放せない。
少し厳しい言い方をすると、
「大きくすること」に依存しているのかもしれません。
なぜ人は増やしてしまうのか
診療の中でも、「減らす」という選択は意外と難しいものです。
仕事を減らす
人間関係を見直す
習慣をやめる
頭ではわかっていても、実際にはなかなかできません。
それはおそらく、「やめること」に対する不安があるからです。
・評価が下がるのではないか
・関係が壊れるのではないか
・取り残されるのではないか
こういった感情が、選択を縛ります。
だから結果として、「増やす」方向に流れていきます。
でも、その積み重ねが消耗につながっているケースは少なくありません。
消耗としての働き方
波乗りクリニックでは、問題の本質を「能力」ではなく「時間の使われ方」として捉えます。
同じ人でも、
- 自分で選んだ仕事をしている時
- 断れずに引き受けた仕事をしている時
この2つでは、疲れ方が全く違います。
前者はある程度の負荷があっても回復しますが、
後者はじわじわと消耗していきます。
『ステイ・スモール』の話は、
この「消耗の構造」を企業レベルで可視化しているようにも感じます。
大きくすることで、コントロールできない要素が増える。
その結果、自分の時間が削られていく。
それは個人の働き方にも、そのまま当てはまります。
医療が関わるべき「時間の問題」
体調不良で来院される方の中には、
検査では異常が出ないケースも少なくありません。
そういう時、生活背景を丁寧に聞いていくと、
- 休めていない
- 断れない仕事が続いている
- 常に誰かに気を遣っている
そういった状況が見えてきます。
つまり、「病気」というよりも、
時間の使われ方の歪みが体に出ている状態です。
医療はここにどう関わるべきか。
単に薬を出して終わりではなく、
「どこで時間が奪われているのか」を一緒に見ていく必要があります。
それは診断というよりも、少し生活の整理に近いかもしれません。
小さくするという選択
『ステイ・スモール』が示しているのは、
単なる経営戦略ではなく、一つの生き方の方向性だと思います。
大きくすることをやめる
増やすことをやめる
無理に広げない
その代わりに、
- 管理できる範囲にとどめる
- 自分で選べる余白を残す
- 消耗を減らす
そういう考え方です。
医療の現場でも、「足す」より「引く」ことで楽になる人は多い印象があります。
薬を増やすのではなく減らす
予定を詰めるのではなく空ける
関係を広げるのではなく整える
その方が、結果的に回復しやすいことがあります。
まとめ
私たちは無意識のうちに、「大きくすること」を良しとしています。
でも、それが本当に自分にとって必要なのかは、
一度立ち止まって考えてみてもいいのかもしれません。
時間は増えません。
だからこそ、「何をやるか」よりも、
「何をやめるか」が重要になる場面もあります。
小さくすることで、見えてくるものもあります。
外来の合間にそんなことを考えながら、
今日も少しだけ、時間の使い方について話をしています。


