『夏を知らない子供たち』

山本和音さんの作品集『夏を知らない子供たち』です。
『星明かりグラフィクス』『生き残った6人によると』などで知られる山本和音さんの短編をまとめた作品集で、「太陽からの手紙」「夏を知らない子供たち」「まどか、田園へ行く」「100ドルは安すぎる」「怪獣警報」「銀河鉄道の女」など、雰囲気の異なる作品が収められています。
短編集ということで一本一本の設定は違うのですが、読んでいて共通して感じるのは、ちょっと奇妙な世界をあまり大げさに説明せず、すっと物語の中に置いてみせるうまさです。
なかでも印象に残ったのが、表題作の「夏を知らない子供たち」でした。
タイトルだけを見ると、どこかノスタルジックな青春ものを想像します。しかし実際には、その印象とはかなり違います。
舞台は地球の平均気温が50度を超え、60度を超える夏には街全体を巨大なドームで覆って暮らしている未来。そんな世界で、主人公たちは外へ出て仕事をしています。
かなり重い設定です。
地球環境が変わり、かつて当たり前だった季節や風景が失われている。設定だけ取り出せば、かなり深刻なSFになりそうです。
ところが、この作品は妙に軽やかです。
キャラクターの表情は生き生きしていて、会話のテンポもいい。未来の過酷な環境で防護服のような格好をして動き回っているのに、どこか日常漫画を読んでいるような親しみやすさがあります。
重いテーマを扱いながら、作品そのものまで重苦しくしない。
ここが、山本和音さんの漫画の面白いところだと思いました。
特に印象的なのは、昔の「夏」を知っている人と、今の環境しか知らない世代との距離です。
同じ「夏」という言葉を使っていても、頭に思い浮かべる景色がまったく違う。
昔は炎天下で野球をしていた、という話が、未来の人間にはほとんど昔話のように聞こえてしまう。このズレが少しおかしく、同時に少し寂しいのです。
それでも、作品は必要以上に悲観的にはなりません。
失われたものを嘆くだけではなく、その環境の中で普通に働き、会話をし、ちょっとした出来事に一喜一憂する人たちが描かれています。
「重いテーマなのですが、POPに爽やかに仕上がっている」という印象が、まさにこの作品の魅力だと思います。
そして、この感覚は表題作だけでなく、作品集全体にもどこか通じています。
設定にはSF的なものもあれば、日常寄りのものもありますが、少し変わった状況に放り込まれた人物たちを、深刻になりすぎずに描く。その一方で、読み終えると妙な余韻が残ります。
絵柄も魅力的です。
線はすっきりしているのに、街並みや乗り物、雑然とした室内などはかなり細かく描き込まれています。人物のポップな表情と、背景の情報量との組み合わせも面白く、画面を眺めているだけでも楽しい作品集です。表紙に描かれた少し未来的な都市と赤い車両も、この作品集らしい明るさと奇妙さをよく表しています。
『夏を知らない子供たち』は、テーマだけを見ると重そうなのに、実際に読むとかなり軽快です。
そして、その軽快さの奥に「失われていくもの」や「変わっていく日常」が静かに置かれている。
深刻なことを深刻な顔だけで描かない。
そんなバランスがとても印象に残る作品集でした。
山本和音さんの漫画を初めて読む人にも、この独特のテンポや世界観を知る一冊として手に取りやすいのではないかと思います。


